いわゆる泥棒運転事例において,車両盗難発生時には車両保有者の容認の範囲内にあったと評価されてもやむを得ない状況にあったとしつつ,事故当時においては車両保有者が客観的に容認していたと評価することは困難であるとして,車両保有者の運行供用者責任を否定した例(名古屋地裁平成30年6月6日判例時報2390号)

関係者等

X1〜X4:原告(Aの相続人)

Y:被告(弁当の配達等を業とする株式会社)

A:自転車運転者

B:Yの従業員

C:車両盗取者(Dの入所者)

D:自立支援ホーム経営会社

事案の概要

Bは,平成28年9月7日午前6時5分ころ,弁当配達等のためにY使用車両(被告車両 なお,車両所有権者については判決文内では言及なし)をD運営の自立支援ホーム施設の入口付近の路上に停車させ,エンジンを掛けたままの状態で施設内に入った。

Cは,平成28年9月7日午前6時6分ころ,Y使用車両を盗取した(Cは平成28年7月に自立支援ホーム施設に入所した後,BがY使用車両のエンジンを掛けたままの状態で自立支援ホームに入る様子を何度か目撃していた)。

Bは,平成28年9月7日午前6時10分ころに停車場所に戻り,車両盗難に気付き,Yに連絡を入れた。Bは,平成28年9月7日午前7時ころ,警察署に被害届を提出した。

平成28年9月7日午後6時18分頃,C運転車両は,パトカーによる追跡(3回目)から逃走中に,A運転自転車と衝突し,その後,Aは死亡した(車両盗難時から事故発生時までの間,Cは,コンビニエンスストアに立ち寄り,パトカーに2回追跡されて逃走していた)。

上記事故について,Xらは,Yに対し,自賠法3条に基づき,合計約4600万円の損害賠償を請求した。

なお,上記事故について,自賠責保険からは約2065万円が支払われている。

裁判所の判断

裁判所は,まず「被告車両の駐車場所,駐車時間,車両の管理状況,泥棒運転の経緯・態様,等用場所と事故との時間的・場所的近接性等を総合考慮して保有者において車両の運転を客観的に容認していたと評価されてもやむを得ない事情がある場合は,運行供用者責任を免れないというべきである」とした。

その上で,被告車両の窃取の経緯(BがD施設への弁当配達の際に日常的にエンジンを掛けたまま被告車両を停止させていたこと,停車場所がD施設の入口付近の路上で会ったこと)からは,「本件事故当時,被告車両は相当程度窃取され易い状況にあったと評価すべき」であり,「窃取時点においては,第三者に対して被告車両の運転を客観的に容認していたと評価されてもやむを得ない状況にあったというべきである」と評価した。

しかし,①Yが窃取後1時間以内に警察に被害届を提出していること,②被告車両窃取時から事故発生までの間に約12時間,被害届提出時からでも約11時間経過していること,③窃取場所から事故減までの距離は直線距離で20.38km,最短走行距離でも24.4kmもあること,④Bは,被告車両を運転中,コンビニに立ち寄ったり,2回パトカーに追跡されながら逃げ切ったりした挙げ句,事故現場付近でもパトカーに追跡され,逃走中に事故を発生させていることといった事情を「被告がBに対して被告車両の運転を客観的に容認していたことを否定する方向」の事情として扱った上で,「以上の諸事情を総合考慮すると,本件事故当時においては,もはや被告がBに対して被告車両の使用を客観的に容認していたと評価することは困難であると言わざるを得ない」として,被告の運行供用者責任を否定した。